桐たんす修理例 三重県桑名市Fさま

今回ご紹介する修理例は、三重県桑名市の
諸戸徳成邸に保管されていた桐たんすです。
諸戸邸は歴史的価値が高く、文化財として
保存すべき建造物と評価されていました。
その諸戸邸が取り壊されるのを機に、
ゆかりの品を譲り受けられることになり、
今後大切に受け継いでお使いになりたいと
お考えになられ、ご依頼いただきました。

修理前の桐たんす

総桐の昇りたんす。
引出しは20㎜の厚い材で造られ、
前板に張られた桐の柾板は約5㎜と
十分な厚みがありました。
底板や背板もきれいな材が使われています。
また、本体は五枚組み接ぎでしっかりと組まれ、
引出しを洗う際、中にお湯を入れても
漏れないほど、きちんと隙間なく組んで
製作された桐たんすです。


引出しの前面には「普段着物」の文字が。
すべての引出しに何が収納されているか
記されていました。
着物の種類ごとに丁寧に仕分けをされていて、
大切にお使いになられていたことが
うかがえました。

再生後の桐たんす



仕上がりの色は時代仕上げ(時代白)です。
他の家具には、あまり見られない色ですが、
「せっかく桐たんすを直すのだから」
ということで、お選びいただきました。
焼いた桐に純白色の砥の粉が映える、
昔から桐たんすの時代仕上げの色として
好まれてきた色です。

台輪について

桐たんすに台輪がなかったため、今回新たに
台輪を製作しました。
台輪は、桐たんすを支える枠組みの台で、
桐たんすを安定させたり、下部の汚れを防ぎ、
最下部の引出しの開け閉めを容易にするほか、
床と下台との間に空間を作り、
狂いを防ぐ役割も果たし、湿気を防いでくれます。


解体される前の諸戸邸
(桐たんすお預かり時に撮影) 

桐たんすをお預かりする際、
「諸戸家ゆかりの品を受け継ぐことになり、
身の引き締まる思いです」とお話して
いただいたことが心に残っています。

また納品後には、「次世代に繋ぐという
気持ちをもって大切にさせてただきます」
とお聞かせいただきました。

蔵の中で眠っていた桐たんすでしたが、
縁された方との繋がりを大切にされるFさまの
もとで、桐たんすの時間が再びゆっくりと
動き始めたことを、元々の持ち主であられた方も
喜ばれ安心されていることと思います。

これからも、ゆかりの品である桐たんすが、
日々の暮らしの中でご愛用されながら、
末永く繋がってゆくことを願っています。