三重県Iさま 実家の桐たんすを一棹残す

曾祖父母さまがお使いになっていた、丸座(錠前付きの丸い鍵座)や木瓜型の引手の金物が特徴的な民芸調のたんすです。ご実家には他にも50年程前のお母さまの嫁入り道具の夫婦たんすやお祖母さまの桐たんすが保存されていました。お預かりの際、こちらの箪笥の引出しの中には、明治時代の新聞が入っていました。ご実家の片付けを機に、大切に保管されてこられた箪笥を一棹は残してご自宅でお使いになりたいとお考えになられ、再生依頼していただきました。

元々本体の表面は黒塗り仕上げ、引出し前面の桐材はとのこ仕上げだったと思われますが、本体の塗装や引出しのとのこが、経年劣化により剥がれて、材の地肌が所々あらわれた状態でした。やわらかな桐の木目も分かりづらくなっていましたが、再生され表面を焼いた時代仕上げ(時代ブラウン)となり、木目の風合いやあたたかみが感じられ、 黒で磨き直しをした金物との相性も良く、箪笥本来の持ち味が活かされたと思います。

虫食いにより脆くなっていた背板は新しい国産の桐材に張替え、材の収縮により、引出しと棚板の間に大きな隙間ができている所は、引出しの上端に材を足して隙間の調整をし、気密性を高めました。鉄製の引手や丸座などの金物は汚れや錆を落とし、つや消しの黒で磨いて取り付けています。折れて短くなった引手を固定している割足という部品や錆による腐食がはげしい隅金具一式は新しいものに交換しています。